名無し の投稿一覧 (96件)
畑の草も伸び切った夏休み最終日。僕は行き場のない焦燥感に追われている。宿題が終わっていないのだ。漢字ドリル・計算ドリル、自由研究さえも残っている。絶対に終わらない。「なんて言い訳しようか」と諦めにも近い感情が芽生えてくる夜、庭で祖父に呼ばれた。
「宿題なんてやんねーで花火するぞ」
大学生になった今でもその日の思い出がはっきりと残っている。最終日まで課題が終わらない性格と共に。。。
「じゃあ、今回はこれで」そう言って女性は去っていった。あんなに近くにいたのに、もうこんなに遠くに行ってしまった。帰りにコンビニに寄って、はじめてビニール袋を買った。ビニール袋も恋愛も、何もかも有料になっていく。制約の多い世の中だ。一人きりの四畳半。鬱屈した思いをビールで押し流して、僕は床についた。
最近の彼女はご機嫌斜めだ。俺が動画クリエイターになるために退職したのが原因らしい。でもいい。それも動画のネタになる。動画をアップしたら怒られた。そりゃそうか。でもいい。それも動画のネタになる。動画をアップしたら、別れることになった。心臓が張り裂けるほど悲しい。でもいい。それも動画のネタになる。しかし、動画をアップしてももう何も起きなかった。次のネタを探さないと。
群青の空に、パンダが浮かんでいた。といってももちろん本物ではなく、雲がパンダみたいな形をしているだけだ。ああ、私もパンダになりたい。パンダになって、一日中ゴロゴロしていたい。だけどご飯は今まで通りがいい。笹なんて毎日食べてはいられない。ああ、一日3食、和洋中色々なご飯を食べられるパンダになりたい。
昔の人曰く、学生時代は人生の夏休みだったらしい。じゃあ学生時代の色々を人生のロスタイムってことにはできないのだろうか。そんな突拍子もないことを考えていたら、電車を乗り過ごしてしまった。これも余命宣告された衝撃のせいだ。しょうがないので駅から出ると、知らない景色が広がっていた。夕日に輝く田園風景。とんだ無駄足だ。だがこれはこれでよかった。
いつもの喫茶店に、古い本が置いてあるのに気づいた。こんなに背表紙が色褪せているのに、なぜ気づかなかったのだろう。本をめくる。どうも平成初期に書かれた、当時の有力者についての本らしい。見たことないようなあるような顔が並ぶ。一世を風靡した彼らは今どこで何をしているのだろうか。その時コーヒーがやってきて、マスターと目が合った。案外田舎でそれなりのコーヒーを淹れてるのかもしれない。
最近、毎朝苦労して起きることがなくなった。夢の中で生きることにしたからだ。夢の中なら、意識があればすぐに動き出せる。ベットから出るためだけに気合を入れる必要もない。春夏秋冬だって思いのまま。夢の中ってこんなに素晴らしいのに、なんで今まで起きていたのだろう?
暗い会場で、講師然とした男が重い口を開く。「諸君、今年がなんの年か、わかるかね?」人々が頷く。その目には、強い決意がみなぎっている。「そうだ、ゴミ箱元年、つまり地球政府の奴らがこの星をゴミ箱と、そして我らの祖先をゴミと見做してから五百年の節目だ。今こそ奴等に、裁きの鉄槌を下すのだ!」講師が右腕を上げると、会場中に雄叫びが満ちた。そうして反乱は始まり、終わった。ゴミは燃やせばよかったのだ。
「Sさんの背景、なんですか?」夜毎のZoom中、ふと尋ねた。「城門です。Y城の」「城、お好きなんですね」「好きというか、ここしかないというか」Sさんは笑った。その後何回かMTGしたが、その度に背景は変わった。あるときは雪積もる城門、あるときは雨に濡れる城門、そして最後は燃える城門。Y城の城門『跡』で戦国時代の白骨遺体が見つかったのは、それから数日後のことだった。遺体の隣にはなぜかスマホがあった。
「もしかして、『こころざした』、て読めないのか?」彼の目が泳ぐ。「ここだよ」ペンで「志した」を叩くと、彼は頷いた。「なんか思い出せなくて...」「大丈夫なのか?司会進行」「覚えるんで、なんとかなると思います」果たして本番、彼は読めなかった。しかしそれが空気を和ませ、会は穏やかに進んだ。終わりよければ全てよし、だ。