もふまる の投稿一覧 (34件)

2022年05月13日 23時17分
お題: 幼い・館・採用
首を求める老婆

近所に廃墟と化した館がある。心霊スポットとして幼い頃から有名で、夜になると伐採用のチェンソーを持った老婆が彷徨っているとか。僕はその手の話は苦手でいつも遠回りしているが、今日は急いでいた。駆け足で通り過ぎようとした時「ウィィーーィイン」という音が響き渡った。やばいやばいやばい、チェンソーだ、半泣きになりながら全力疾走した。肩で息をしながら呆然としていると耳元で老婆が囁く。「オマエノクビモホシイ」

2022年05月12日 11時35分
お題: 転職・処理・勘違い
最近の趣味

7年付き合った彼と入籍した。私の夫は転職活動中だ。なにやら怪しげなプログラミングスクールに一年前から通っているが一向に転職する様子がない。彼は大器晩成型で将来大物になると思ってたけど勘違いだったかな。でも彼が教えてくれたこの「三文小説」はとても面白い。自分の言語処理能力がぐんぐん上がってる気がするし、通勤時間に小説を執筆するなんておしゃれだ。彼もこんなサービスが作れるようになりますように。

2022年05月11日 06時51分
お題: 三角測量・Youtube・女
研究テーマ「パパ(測量士)のお仕事体験」

「宿題終わってるわよね?」ママの言葉に咄嗟に嘘をついてしまった。実は自由研究が残っている。Youtubeを見てるパパにコソッとそのことを伝えてみる。「任せとけ!」パパは僕を公園に連れ出した。「昔はこうやって地図を作ったんだよ」三角測量というらしい。難しくて僕にはよくわからなかったけど、パパのお仕事を覗けたようでなんだか嬉しい。「何してるのー?」話しかけてきたのは僕の好きな女の子。僕のパパは最高だ!

2022年05月10日 18時49分
お題: 動画・無限・吸収
子どもの決心

幼少期のVHSを見返してみる。画質の悪い動画の中の俺は公園の滑り台を滑っては登り、無限に繰り返している。無邪気な自分にフッと鼻で笑うと母親だろうか、女性の声が聞こえてきた。「こんなに可愛いのにね。幸せにできるかしら」父の声が続く。「可愛くなくて里子に出したわけじゃないだろう。中学生2人が子供を育てるのは難しい。僕たちが大事に大事に育てていこう。」全ての音が吸収されたかのような衝撃が俺を襲う。

2022年05月09日 13時44分
お題: 校門・ビニール袋・登場人物
子ども

「ビニール袋をカシャカシャする音で赤ちゃんは泣き止むんだって」妊娠したことを伝えて以来、聡は子育て情報をニコニコしながら私に教えてくれる。あかちゃんができたとわかった時は純粋に嬉しかった。でも正直今は不安の方が大きい。自分がドラマの登場人物ような人生を歩もうとしているなんて、想像もしていなかったことだ。少し前を歩く制服姿の彼の背中を、複雑な気持ちで見つめながら校門をくぐった。

2022年05月08日 14時04分
お題: 財布・文明・夏
上京

期待と希望を両手いっぱいに抱えて上京したのは3年前。夢や目標なんて、一瞬で消え去った。上司の怒号が飛び交う毎日。寝る間も無い。そのうち何を食べても味がしなくなった。
目を瞑ると瞼の裏に浮かぶのは田舎の風景だ。真夏の田んぼ道。高い空。風邪をひくと母が買ってきてくれた文明堂のカステラ。もうダメかもしれない。溢れそうな涙を振り払うように、財布だけを握りしめて夜行バスのりばへ向かった。

2022年04月25日 13時23分
お題: ぐちょぐちょ・夏・バグ
未解決事件

太陽が照りつける。真夏日だ。まだ5月なのに季節がバグってる。朝から聴き込みを続け、ワイシャツは汗でぐちょぐちょだ。「ひたすら足を動かせ」新人の頃に聞いた先輩の言葉を思い出す。もうすぐ定年、俺の刑事人生はあと1年で終わりを迎える。5年前に発生した川崎市女性殺害事件。未解決のこの事件を俺は追っていた。被害者遺族の悲痛な表情が脳裏に焼き付く。ふと目の前に現れる寂れたバー。刑事の勘だろうか、胸がざわつく。

2022年04月24日 14時38分
お題: 夢・自覚・パンダ
妹のため

「上野動物園にパンダの赤ちゃんが誕生しました!」アナウンサーだろうか、場違いに明るい声が部屋に響く。監禁されてから3日は経ってるはずだ。悪い夢であってほしい。夜道を帰宅中、強い衝撃が全身を走り、気づいたらこの部屋にいた。犯人の目的はなんなんだ?
男が耳元でささやく。「5年前の春、妹が殺されたんだよ。お前を見つけるのに2年かかった。タイムマシンは諦めた。」
僕は命の終わりを自覚する。

2022年04月21日 07時16分
お題: 春・三角測量・ロスタイム
叶わなかった夢

宇宙飛行士になりたかった。幼い頃祖父とみた、春の大三角、うしかい座のアルクトゥルス、おとめ座のスピカ、しし座のデネボラのアステリズムに心奪われたのがきっかけだった。宇宙に行くことが僕の全てだった。必死に努力した。でも僕は選ばれなかった。見上げた夜空に浮かぶスピカとデネボラの距離は214光年。三角測量で自分と宇宙の距離を考えるが、その果てしない数字にそっと俯いた。人生のロスタイムが始まる。

2022年04月20日 13時13分
お題: 夢・カーテン・漢字
パパのお仕事

「僕、将来の夢はスーパーマン!」カーテンをマントがわりにして遊ぶ息子の言葉にギョッとした。昨日見たアニメに影響されたのね〜とキッチンから聞こえる妻の言葉にほっとする。よかった、バレたわけじゃなかったか。
深夜2時。胸元に「正義」の漢字2文字が刺繍されている絶望的にダサいスーツに着替える。家族が寝静まっていることを確認して今日も世界の平和を守るため、家を出るのであった。