もふまる の投稿一覧 (34件)

2022年07月18日 20時13分
お題: 三点倒立・復活・パンダ
パンダだけにね

浮気がバレたのは30分前。「パンダの赤ちゃん、誰と見に行ったの?」机に置かれた動物園のチケットに一気に血の気が引いた。「顔真っ青だよ。とりあえず、そこで三点倒立」真っ青だった顔はすっかり復活して、逆に真っ赤だ。「次浮気したらおちんちん切る約束だったよね」ハサミを持つ妻はガチだ。「縮こまってパンダの赤ちゃんみたいになってるわよ」頭に血が昇っているのと恥ずかしさと恐ろしさで視界が白黒に点滅した。

2022年07月17日 11時04分
お題: 犬鷲・四季・当時
お隣さんの正体

「これ、よかったらどうぞ」麻里子さんにコーヒーを差し出す。職場上司の麻里子さん。綺麗で仕事ができてこんな僕にも優しい。トキ、犬鷲、イリオモテヤマネコ、麻里子さん。天然記念物級だ。昼食には手作りのお弁当。四季の旬のものを使ったおかずがカラフルに詰められている。学生当時から付き合っている人と同棲中。家は目黒区のマンション708号室。「ありがとう助かる、寝不足でさ」知ってる、声隣から聴いてたから

2022年07月13日 01時15分
お題: 財布・ずる・師弟
夢の終わり

一度も売れずに芸歴は23年、師匠との師弟関係は丁度20年目だ。72歳になった師匠はこの頃認知症が進行しているようだった。少し前に転んでできた膝の傷が痛々しい。「まったくもう、ずる剥けるのは頭だけにしてくださいよ」「ごめんなぁ、ほらこれで美味いもの食え」ポッケからクシャクシャの千円札を出す。「誕生日にあげた財布、使ってくださいよ」「ごめんなぁ」お互い声が震えていた。「...今までお世話になりました」

2022年07月12日 01時04分
お題: 不死鳥・Rails・低下
敷かれたレール

うちは代々の政治家一家だ。幼い頃から塾に通い、息をするように勉強した。一流大学に入学し、親に言われた通りの一流企業に就職すると思ってたのに、父が逮捕された。人気が低下している中で行われた選挙、票を買ったらしい。「まさに不死鳥!復活当選!」そんな見出しの新聞記事が足元に転がってる。広告欄の有名予備校のキャッチコピーが嫌に目に飛び込んできた。
Don't walk on the laid Rails.

2022年07月11日 14時40分
お題: 対義語・大三元・文明
目の前の平和

「麻雀好きなんですか?」最近定期的に通う中華屋の店主に声をかける。店の名前が大三元だからだ。「まぁね」素っ気無いけど、どこか暖かさを感じる声だった。「いつものでいい?」常連と認められたような気がして、頷きながら頬が緩む。店のテレビから流れるのは元総理大臣銃殺のニュース。文明が発達した今、連日報道されるのは伝染病と戦争、そして暗殺。運ばれてきた大盛りチャーハンと餃子がこの世界の対義語のように思えた。

2022年06月05日 18時02分
お題: 財布・韻・学生
運命の相手は

デートの余韻に浸っているうちに寝落ちしていたようだ。あんなにときめいてふわふわした時間を過ごしたのは学生以来だ。ただ食事をしながら会話をして終電前には解散。前世で夫婦だったんじゃないかと思うくらい会話も弾んだ。次の約束は週末だ。にやにやしながら脱ぎ捨てらたズボンを片付ける。ポッケに入っている財布を机に置こうとして違和感を感じた。「嘘だろ」嫌に軽く感じた財布の中は空っぽ。全てを悟った僕は頭を抱えた。

2022年05月24日 22時05分
お題: 犬鷲・ルビー・腕試し
大切な人

初デートは博物館だった。動物が好きだというから沢山の動物の標本がある博物館に連れてったのに「変わってるね、普通動物園じゃない?」とケラケラ笑っていたっけ。両翼を広げた犬鷲の標本の真似をしてはしゃぐ彼女。「腕試しさせて!」と僕から射的の銃を奪うと、難なく的中させて自慢げに僕を見る彼女。記憶の中の彼女はこんなに鮮明なのに、今では遺灰から拾い上げたこのルビーの指輪だけが、唯一触れられる彼女の一部だ。

2022年05月23日 06時55分
お題: 軍人・男・襟
アイデンティティとは

襟元を触りながら考える。私はこういう人間ですって表す手段は沢山あるけど1番は発言だと思うわけ。自分からでてくる言葉は自分そのものでしょ?でも一生友達でいようねって約束した中学の親友とは卒業以来会っていないし、軍人並みにゴリゴリな男が好きって言ってたのにもやし男と結婚した。不安定なもので自分が形作られているのなら、そもそも自分ってよくわからなくなるしじゃああなたと私、それを区別しているのってなに?

2022年05月22日 23時36分
お題: 松・ヘッドホン・和
失ってから気づくこと

和風ペペロンチーノ。あの人が私の手料理で1番好きだったメニュー。別に嫌いになった訳ではなかったけどなんとなく、新しい人生を歩みたくなって離婚した。子なし夫婦だったし、紙切れ一枚で得られた自由は想像していたより普通だった。乱れた市松模様のシーツには歳下の彼が忘れていったヘッドホンが無造作に転がっている。パスタを啜りながら、あの人のことを思い出す。今日はいつもより美味しく作れたよ、なんてね。

2022年05月13日 23時59分
お題: 幼い・館・採用
天国

永遠に続く青。聞こえるのは波の音だけ。幼い頃に想像した天国が今目の前に存在している。自分は天国へ行ける人間に採用されたのか。そうだよな、頑張ってきたもんな。家族のため、身を粉にして働いてお金のかかる趣味もなかった。お酒も飲まない。タバコも吸わない。休日はベランダで育ててる観葉植物に水をやる。天国に来るべくしてきたよな。うん。「.....あなた、なに浸ってるのよ。館山に旅行しにきただけじゃない」